#57 歴史と非日常に触れる船旅 神を斎く島「竹生島」
琵琶湖の北部に浮かぶ周囲2kmの小島「竹生島(ちくぶしま)」は、海のように広い琵琶湖にぽつんと浮かぶ無人島です。ですがこの島には西国三十三所の札所の一つに数えられる古刹が存在し、古来より信仰の対象として大切にされてきた、今もたくさんの方が訪れるスポットです。パワースポットとしても注目され始めている竹生島の魅力をご紹介します。
歴史を今に伝える証しを感じる船旅へ
竹生島全体を神と仰ぐ信仰は中世以前より伝承として伝えられているのですが、それは船人たちの心の支えと、琵琶湖の水運における湖上の目印としての篤い崇敬だったと考えられています。
江戸時代まで大量輸送手段として水運は非常に重要で、滋賀県の六分の一を占める大きさである琵琶湖は京都にも近く交通の要衝でした。日本海で取れた海産物を始め、たくさんの物資を敦賀で陸揚げし、峠を越えて琵琶湖まで運び、湖上輸送を通じて京都へと運んだといいます。
(公社)びわこビジターズビューロー
京への物資輸送の大動脈として多い時には1,000艘以上もの船が帆を揚げ、賑わいをみせたという琵琶湖。行きかう人々の守り神として鎮座してきた竹生島はいわば歴史の証人でもあります。
そんな竹生島へは現在船でのみアクセスができます。
「彦根港」「長浜港」「今津港」から定期船が運航しており、今回は長浜港より乗船します。約40分の船旅です。
竹生島は、琵琶湖の中に浮かぶ一周およそ2km、標高197mの島。その中に宝厳寺、竹生島神社が所在しており、なかでも宝厳寺の唐門、竹生島の本殿は国宝に指定されています。
ぽっかり浮かんだ小さな島に歴史の息吹を感じることができますよね。さあ、上陸ですよ。
弁天様の住む島
今回は特別に宝厳寺住職の峰覚雄さんよりご案内を頂きました。
まずは百数十段の石段を登った先にある宝厳寺本堂を先に参りに行きます。
本尊は弁財天。神奈川の江島神社、宮島の大願寺とならび日本三大弁財天の一つと数えられ、創建は一番古いとされています。秘仏であるため、普段は非公開となっていて、60年に1度開帳されます。次回の開帳予定は西暦2037年だそうです。
弁財天は一般的に学問や芸術、豊穣に開運をもたらす女神というイメージがあるのですが、
住職の峰さんは「弁天様はインドがルーツの水の神様。インドではお母さんの象徴。アーリア人という遊牧民が信仰のルーツと言われているので、水って凄い大事なんですよ。オアシスであり、そこで子どもが生まれる。そんなところから五穀豊穣の神とか、生活を豊かにしてくれる神と言われています。」琵琶湖を船で通る旅人をいにしえより見守ってきた竹生島が、水の神様を祀っているというのは確かにうなずけますよね。
本堂にはかわいいだるまさんがいっぱいいます。
「弁天様の幸せ願いだるま」といって、小さくて赤い可愛いだるまの中にお願い事を書いた紙を収め、本堂に奉納するという願掛けですね。
さっそくお願いを記入して奉納してきました。
このだるまさんは職人さんの手作り。表情も一つ一つ違うので愛着が湧いてきます。
何とも言えない可愛さですね。
次は観音堂を見るために中腹まで降りてみましょう。
目に入ってくるのは豪華絢爛な唐門。国宝です。
中世の歴史と触れ合う
この唐門はもともと京都東山に秀吉を祀るためにつくられた豊国廟に建っていた極楽門を豊臣秀頼の命で移築されたもので、さらに文献としては、『義演准后日記』と『舜旧記』に、大坂城の極楽橋が豊国廟に移築された記述もあります。
そのようなことから豊臣期の貴重な建造物であることは認識されていたのですが、さらに平成18年には、オーストリアのエッゲンベルグ城で発見された『大坂城図屏風』に、『極楽門』の前身とされる大坂城の本丸北方に架けられていた『極楽橋』の姿が描かれており、その絵図から『唐門』が秀吉が建てた大坂城の唯一の遺構であろうと注目を集めています。
2020年5月には、唐門とその奥にある観音堂と渡廊の保存修理工事がされており、レーザー測定で顔料や模様を分析し往時の姿にと漆や彩色の塗り直しと屋根の吹き替えが行われています。
「漆に関しては、前の塗膜を落として、レーザー光線で検査してみると使っていた塗料が分かるんですよね。塗膜の状態のいいところは、その残っている漆を利用して上塗りしていく『すり漆仕上げ』という技法を使っています。」
その先にあるのは観音堂。
秘仏である千手千眼観世音菩薩を収めた観音堂は、西国三十三所の第三十番札所。今も巡礼の旅人で賑わっています。
室町期にはすでに庶民の巡礼として定着していたといわれる西国三十三所ですが、今のようなエンジンを積んだ船などもちろんなく、おそらく小さな小舟を漕いで渡ってきたと考えると、命がけで挑んだ最大の難所だったのではないでしょうか。そこまでして大切に崇め奉る神々の為には多くの困難を厭わない、それはまさに「神を斎く(いつく)」(心身を清めて神に使える、敬って大切に世話をするという意)ということで、竹生島の語源になったと云われるのもうなづけます。
琵琶湖の果てにある「神を斎く島」で、ようやくたどり着いた旅人はいったい何を祈ったのか・・実際に来て歴史に触れてみると、感慨深いものがありますよね。
観音堂から竹生島神社に続く渡廊・舟廊下。豊臣秀吉のご座船として作られた日本丸の船櫓(ふなやぐら)を利用して作られたところから、その名がついたといわれています。
傾斜地に作られているため、清水寺と同じく「懸造り」という工法で建てられており、安土桃山時代の貴重な建築物を間近で見ることができます。
その先の竹生島神社でぜひとも体験してほしいのは、「かわらけ投げ」。
土器(かわらけ)に願い事を書き、島一番のビュースポットである拝殿の突き出したところにある竜神拝所から鳥居へと投げます。 投げたかわらけが鳥居をくぐれば、願い事が成就するとも言われているので、ぜひチャレンジを。
普段を離れて、自分を見つける
「ここはね、不便やし何もないですよね。」と峰住職は仰います。
「でも、わざわざ訪れることで、雄大な琵琶湖をみて、ちっぽけな自分に気づいて、もっと自然体でいいことに気付いてほしいですね。一所懸命にスマホで仕事の話をされる方を見かけることもありますが、せっかくならば、普段ではできない特別な体験をじっくりと感じてほしいですね。」
「船に乗ってくる、ちょっと遠いところに来たな、と思えばそれゆえの脱日常も感じることができるでしょう。いつもと違う自分を感じたり、見つけたり。せっかくここまで足を運んで頂くのですから、そんな自分を顧みる手助けにして頂ければいいのではないでしょうか。」
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この辺りは北陸の天候に近く、夏は暑く冬の寒さは厳しいといいます。
北湖(琵琶湖の北部)は果てしなく広く、それでいて包み込むような穏やかさも併せ持っています。
そしていにしえより変わらずその真ん中に佇む竹生島。その自然の雄大さと脈々と歴史を受け継ぐ古刹の存在感でパワースポットとしても人気が出ています。
しばし普段の生活を離れ、非日常を味わう旅はいかがでしょうか。
Information
竹生島(宝厳寺・竹生島神社)
滋賀県長浜市早崎町
9:30~16:30(観光船就航時間に基づく)
宝厳寺ホームページ / 竹生島神社ホームページ
■入島には竹生島への乗船料(往復)とは別に入島料が必要となります。
■宝物殿拝観料:大人 300円 小人 250円
■長浜・彦根・今津の各港より、汽船約25分~40分
※船舶の運行情報については各船舶会社のホームページをご確認ください。