#19 虹色の輝きを放つ「JINBO PEARLS」。
生産者と琵琶湖の自然が織りなす真珠
一つとして同じ形がなく、見る角度によって虹のように光り方が変わる。スクエアや楕円形。凹凸の輝きが重なり合い、個性的な美しさを放つ「びわ湖真珠」。
その唯一無二の魅力に惹かれ、3代目として「神保真珠商店」を継がれた杉山知子さん。2014年オープンした直営店「神保真珠商店」への想いとびわ湖真珠のこれからについて伺いました。
別ジャンルからの転身だから見えたこと
1200年前の人も愛した輝き。その歴史は、平安時代に遡ります。歌人・柿本人麻呂が万葉集に詠んだ「近江の白玉」とは、まさにこの真珠のこと。滋賀県大津市にある「神保真珠商店」は、びわ湖真珠「JINBO PEARLS」を扱うアクセサリーショップです。
「びわ湖真珠の魅力に引き込まれて、知らず知らずとここまで導かれてきた感覚です」と話すのは、神保真珠商店・3代目の杉山知子さん。1966年の創業以来、琵琶湖の淡水真珠専門店として小売を行ってきた神保真珠商店。親戚がびわ湖真珠の養殖と貿易業を営んでいたことがきっかけとなり、杉山さんの御祖父様が60歳を過ぎてから創業されたそうです。
「“いいものを紹介する”というスタンスで、当初は店舗を持たない小さな商いでしたが、周りにも好評だったと聞いています。」
びわ湖真珠は、池蝶貝(いけちょうがい)という貝の養殖によって生まれます。池蝶貝は、琵琶湖にしかいない固有種の貝。主貝となる貝の成長を待って約3年、さらに、貝の中で真珠が育つのに約3年という時間を要します。種類は、さまざまな形の核を入れる「有核真珠」、核を入れず全てが真珠層となる「無核真珠」の2つ。ヨーロッパやアメリカで高く評価され、びわ湖真珠が海外輸出ジュエリーとして需要が多い時期もありました。
1980年代後半、琵琶湖の水質悪化により、びわ湖真珠が育たなくなってしまう現象が起こります。90軒ほどあった養殖業者も、10軒程まで一気に減少したといいます。
以前は大阪にある設備設計系の会社に勤めていた杉山さん。「びわ湖真珠は、産業として上向きではありませんでしたが、祖父や父の姿を見ていて、いつかは継ぎたいなとぼんやり考えている状態でした。」
すると30代半ばの頃、転機が訪れます。当時の会社で、大阪から東京に部署ごと移転をするという話が出たことが、杉山さん自身のこれからの働き方を見直すきっかけとなりました。
「改めて、実家の状況が目に入りました。父親が『神保真珠商店』はいつか終わらせる予定だけれど、いい琵琶湖の真珠が手元にあるので、売り切ってから事業を畳みたいと話していました。私も、綺麗に商売が終えられたらいいなという意志で、家業に携わり始めました。」
こうして杉山さんは滋賀県に店舗を開き、フリーランスとして設計の仕事をしながら、神保真珠商店の仕事を手伝い始めます。けれど杉山さんが手伝い始めてから、想定以上に事業が回りだし、真珠の仕入れ量も、関わる養殖業者さんも増えました。
「養殖業者さんとゆっくりお話しする機会が多くなりました。80年代に琵琶湖での真珠産業がしんどくなってからも養殖業を継続しているのは、琵琶湖の真珠の美しさに惚れ込んでいるから。一つひとつの仕事が丁寧で、その結果が真珠の美しさに繋がっていることに気づいたのです。」
生産者の想いと真珠の美しさに導かれて
杉山さんの祖父が起業した頃、びわ湖真珠は海外のバイヤーが購入する流れが築かれていて日本ではほぼ流通していない状態でした。携わるほどに養殖業者さんの情熱を持った仕事ぶりに感化された杉山さんは、むくむくと事業と真珠への想いが大きくなっていきます。
「この美しいびわ湖真珠が欲しい人は日本にたくさんいるはずで、その人たちに生産者の想いも伝えたいと強く思うようになりました。」
2014年に、初の直営店舗「神保真珠商店」を現在の場所にオープン。反対する父親を説得しての開業でした。
「びわ湖真珠の美しさと、養殖業者さんの真摯な仕事を知ったことで、びわ湖真珠を好きになってくださる方がきっとたくさんいるだろうと確信を持っていました。そのため経営経験もなく分からないことだらけでしたが、思い切ってスタートを切ることが出来ました」と杉山さんは微笑みます。
人の手が及ばない琵琶湖の自然の中で、約6年という歳月を掛けて生まれるびわ湖真珠。杉山さんは、真珠に派手な装飾を行いません。
「真珠そのものがデザインされたものだと捉えています。真珠の養殖は、養殖業者さんごとに、細かい技法を持ち合わせています。真珠を取る段階で、完成していたとしても、もっと良い形になるかもしれないと判断して、更に1年間湖の中に置くこともあるんですよ。作り手の目利き力と技術、そして自然の恵みがいい塩梅でかけ合わさる真珠。まさに十人十色。作り手が変われば真珠の色合いや形も変わるなんて、すごいことですよね。」
形や輝きを見て、手に取って選んでほしいという想いから、購入できるのは、実店舗のみ。シンプルなデザインが、真珠そのものが持つ存在感と艶やかさをより一層引き立てています。
「私はジュエリーデザイナーやその分野の職人ではありません。強いこだわりがない分、客観的な目線を持てていると思います。“こんなアクセサリーがあればいいなあ”と思う自分の感覚を大切にしています。多くのお客さんにびわ湖真珠を選んでもらえること、本当に価値をわかってもらえる人に届けることが私たちのゴール。養殖業者さんの想いとともに、丁寧に伝えていきたいです。」
琵琶湖に想いを馳せる、一つのきっかけになれたら
琵琶湖の真珠養殖業は、代々引き継いでいる事業者が多く、作り手もベテランでなければ続けられない仕事でもあるといいます。そのため、新規参入しにくい業界だともいわれます。池蝶貝そのものが育ちにくい貝だということ、そして真珠が取れるまでに、貝から数えると6年以上、貝に養殖を施してからだと3年以上はかかってしまうことが、特に難易度を高くしている理由のようです。
びわ湖真珠は量産できないためたくさん売ることができません。その代わりに価値を上げていきたいと杉山さんは考えています。びわ湖真珠の価値をどこまで高められるか、そしてそれをどうキープできるかがこれからのチャレンジだと話します。
「真珠の存在と背景にあるストーリーを知ってもらうことも、びわ湖真珠の大切な役割の一つ。滋賀を訪れてもらう一つのキーワードになってもらえれば嬉しいです。」
びわ湖真珠は、養殖業者さんの想いが積み重なって生まれた大切な宝物。養殖業者に寄り添いながら、魅力を伝え続ける神保真珠商店。琵琶湖の自然がつなぎ合わせた両者の関係性は、とても魅力的に映りました。琵琶湖に思いを馳せるきっかけとなる産業として、びわ湖真珠がいつまでも輝き続けますように。
Information
神保真珠商店 / JINBO PEARLS
滋賀県大津市中央3丁目4-28 1F(Google Map)
営業時間:10:00〜18:00
店休日:火曜日・第2・4水曜日・祝日
TEL:077-523-1254
MAIL:info@jinbo-pearls.jp
※上記は2022年11月1日現在の情報となります。